12/31/2025

〈断〉3

読みかけていた本のページを久しぶりに開き、続きを読む。絢爛豪華な舞台の中央で、私はいつの間にか眠りに誘われる。
目が覚めた。大分長い間眠ってしまったように思われた。いつも使っている机、その上にはコーヒー、水、蝋燭、ノート、紙片、インク、万年筆、ポストカードが眠る前と全く同じ場所に置かれていた。部屋だけが異質だった。私が目覚めた場所は、おそらく〈家〉の中の一部屋ではあるが、机と椅子が入る程度の広さしかなく、扉や廊下どころか通路と呼べる場所すらも見当たらなかった。〈家〉は新しく、簡素で、明るく優しい現代的な色合いの木で造られていた。天井も、床も、壁も全て同じ木でできており、狭い〈部屋〉の天井中央にランプが灯っていた。私はこの快適に閉ざされた自分の〈部屋〉に漠然とした不安を覚え、今すぐこの場所から離れなければならないように感じた。
ふいにどこからか私を呼ぶ〈母親〉の声がした。優しく、不機嫌で、有無を言わせない号令が、惑う魂を捉えて離さない。私にはまだ僅かに抵抗する力が残っていた。ここから逃げることが、この夢から覚めることができたら、安全であると言える。私は脱出することを強く念じた。金縛りから解放されたような感覚の後、始めに眠りこけたときと同じ体勢で椅子に凭れかかり、開いたままの本を抱えていた。逃げ切れた、と思った。しかし、目覚めたこの瞬間もまた夢だった。私は再び〈部屋〉に戻されようとしていた。あまりに強い力に引きずられながら、私は日頃手元に置いておいた紋章の入ったメダルを咄嗟に手に取り、助けを願う相手も見えないまま、助けてくれるようにと願った。
やがてまた〈部屋〉に戻った。今度は〈母親〉が机を(机の上にあったものも丸ごと)軽々と持ち上げて、「最早お前の行くべき場所は他にはない」「物語はもう存在しない」と無言で示した。私が椅子から降りると、一方の壁の下方がひとりでに動き、螺旋階段となってさらに下の階に続いた。階段は人一人分の幅すらないくらいに狭く、身を捩りながらようやく階段を降りきった先は〈家〉と同じ材質で造られた壁で塞がれていた。
壁を押しやると木目が波打ち、壁が遠ざかった。もう一度押すと、壁は小さな立方体の波を作り、広がって遠ざかった。さらにもう一回押しやると、壁は突如として金紗の大幕に変わり、大広間が現れた。幕は広間を縦断し、心地良い風が一面に通り抜けていた。私は大幕の下に立ち、そっと触れると、金紗が私の手を優しく掴むように包み込んだ。私はその手を取り勢いよく引き上げると、身体は軽やかに上昇し、幕の一番上のところに飾られた、自分の倍も大きさのある赤い薔薇の元まで昇りきった。私は薔薇を抱き締め、金紗の大幕は私を包み込み、遥か上方から降り注ぐ光が未知の国を照らした。