9/10/2026

エスフォル 序

私たちは炎になった
最後の火を灯し 掲げ
無限の時を旅し
すべての幻想を払え
そして遍く天へ広がり
自在に駆けよ

***

このような光景を見た
長い 長い 
精神の戦いの旅路を歩んだ
一人のさすらい人が
最後にして最初の到達点に辿り着いた
それは来るべき朝、春の訪れだった
朦朧とする意識の中
まっすぐに何かを見据えて
貴方にしか見えぬ誰かに会ったかのように
思い出を踏みしめた

それは最初の意志となった
一歩 また一歩と歩くたびに
物語は貴方を祝福し
新しい言葉と、声と、あこがれと、歌が
まだ暗い空から地平線のなきところまで飛び立っていった
(そのとき落ちた羽を持つ人々を
この地上において
時折見かけることがあるのだが
私は彼らを忘れたことはない)

それは固い誓いだった
首に下げた形見の宝石が俄かに輝きを放ち
硝子の割れるように砕け散った
貴方はこの光景をこそ望んだ
道行の先に待つものをこそ待ち焦がれた
一体誰が貴方の望みを知ることができただろうか?
貴方の名しか知らぬ人々にとっては?

運命の向かう先、嵐の予感
ただ報いのために歩み続けるまで
貴方は貴方の果たすべき約束のため
自らを「世界の敵」と名付けた

伝説をさすらう者、
時の終わりから始まりまで
今もなおさまよえるエスフォルよ
願わくば、貴方の姿が再び照らされるように

8/13/2026

18.

自由! 自由!
すべての制約の破壊!
規律、習慣、常識、論理、
それらを超えた先の「空」!
何を悲しむことがある?
何を憤ることがある?
彼らは見たことがなかったではないか、
彼らは見ようとしなかったではないか!
それは私のあこがれだ、
天よりも高いところ、彼方の水平線が
最初に現れる瞬間へ、
心に従い歩むだけだ。

8/09/2026

17.

無温の三月
列車の行先に
聳えた夕日は
まばゆくも暗く
出会うべきものに
別れを告げよと
予言は影に溶け
声なく誓う

貴方は自由人ではなく
自由に魂を売った
その名と貴方自身が
自由そのものなのだ

明滅する光明
烈しくも優しき太陽へ
あこがれは死せず
希望を語ろうとも
かつての亡霊が
忘れたとは言わせぬと
気まぐれに目を覚ましては
私に呪詛を浴びせる

墜落を知りながら飛び立ち
羽根を失ったのは
貴方ではない
私こそが墜ちた者だったのだ

はじまりの夜明け
陽光が照らす
地平線の先は
待ちわびた静けさ
今もなお想う旅路を
また歩き出す時だと
いつも傍に在った
その声で私を呼ぶ

私は私のために
理へ魂を売った
永遠の詩人は
言葉そのものとなったのだ

5/10/2026

〈断〉4:「K」

永い時を放浪した者は、終着点の〈祭壇〉に辿り着き、最後(あるいは最初)の炎を灯す。煙は昇り、〈王国〉の全景を映し出す。神々の住まう山脈、七つの夜明け、遊ぶように駆けてゆく星々と天使たち……それらは〈王国〉そのものだ。それぞれの事象でありながら、また同時にすべてでもある。映し出された〈王国〉のあらゆるものが、炎となり、煙となり、飛翔したかつての同胞たちだ。星が単なる星であろうか? 雲間にそれらが自由に流れて行くのを視たときから、何もかもは始まっていた。はじめからそれらはあったのだ、はじめから導かれていたのだ。
私もまた行くだろう。

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1/10/2026

16.

賛美、泡沫のような賛美が
魅入る者たちの顔を映し出し
御伽話は飽和した
親しき登場人物の名や生き様を記すべく
胸の内に 僅かに
残っていたはずの彼らの声は
雑踏に搔き消された
 
目も眩むほどの光に照らされた宝を
見せびらかさずにはいられなくなり
なけなしの財をはたいて作られた祭壇に
眠っていたのは誰だったか?
幻はやはり幻にすぎなかった
それでも霧の向こうの道は照らされている
時はあざ笑うかのように
優しい微笑みを湛えて見守る
 
幸福のさなかにある者は すでにひとつの
結末に辿り着こうとしている
昼は夜を、夜は昼を、互いを忘れたことはない
幻影が私のそばを通り過ぎてゆく
夢心地の〈聖域〉と 水平線の続くところで
同じように思い出し
彼らも私も 同じように旅を始めるだろう
歌え!
 
導け、導け、
そして地を彷徨う。
凱旋せよ、視ている、
そして独り歩み続けろ。

12/31/2025

〈断〉3

読みかけていた本のページを久しぶりに開き、続きを読む。絢爛豪華な舞台の中央で、私はいつの間にか眠りに誘われる。
目が覚めた。大分長い間眠ってしまったように思われた。いつも使っている机、その上にはコーヒー、水、蝋燭、ノート、紙片、インク、万年筆、ポストカードが眠る前と全く同じ場所に置かれていた。部屋だけが異質だった。私が目覚めた場所は、おそらく〈家〉の中の一部屋ではあるが、机と椅子が入る程度の広さしかなく、扉や廊下どころか通路と呼べる場所すらも見当たらなかった。〈家〉は新しく、簡素で、明るく優しい現代的な色合いの木で造られていた。天井も、床も、壁も全て同じ木でできており、狭い〈部屋〉の天井中央にランプが灯っていた。私はこの快適に閉ざされた自分の〈部屋〉に漠然とした不安を覚え、今すぐこの場所から離れなければならないように感じた。
ふいにどこからか私を呼ぶ〈母親〉の声がした。優しく、不機嫌で、有無を言わせない号令が、惑う魂を捉えて離さない。私にはまだ僅かに抵抗する力が残っていた。ここから逃げることが、この夢から覚めることができたら、安全であると言える。私は脱出することを強く念じた。金縛りから解放されたような感覚の後、始めに眠りこけたときと同じ体勢で椅子に凭れかかり、開いたままの本を抱えていた。逃げ切れた、と思った。しかし、目覚めたこの瞬間もまた夢だった。私は再び〈部屋〉に戻されようとしていた。あまりに強い力に引きずられながら、私は日頃手元に置いておいた紋章の入ったメダルを咄嗟に手に取り、助けを願う相手も見えないまま、助けてくれるようにと願った。
やがてまた〈部屋〉に戻った。今度は〈母親〉が机を(机の上にあったものも丸ごと)軽々と持ち上げて、「最早お前の行くべき場所は他にはない」「物語はもう存在しない」と無言で示した。私が椅子から降りると、一方の壁の下方がひとりでに動き、螺旋階段となってさらに下の階に続いた。階段は人一人分の幅すらないくらいに狭く、身を捩りながらようやく階段を降りきった先は〈家〉と同じ材質で造られた壁で塞がれていた。
壁を押しやると木目が波打ち、壁が遠ざかった。もう一度押すと、壁は小さな立方体の波を作り、広がって遠ざかった。さらにもう一回押しやると、壁は突如として金紗の大幕に変わり、大広間が現れた。幕は広間を縦断し、心地良い風が一面に通り抜けていた。私は大幕の下に立ち、そっと触れると、金紗が私の手を優しく掴むように包み込んだ。私はその手を取り勢いよく引き上げると、身体は軽やかに上昇し、幕の一番上のところに飾られた、自分の倍も大きさのある赤い薔薇の元まで昇りきった。私は薔薇を抱き締め、金紗の大幕は私を包み込み、遥か上方から降り注ぐ光が未知の国を照らした。

10/06/2025

15.

荒波に火を灯せ
静寂に満ちる花の馨り
流れ去る煙は廻り
触れた声は散り散りになって砕けた
風よ、言の葉よ
天を衝く幻の山々よ
語られぬ遠き道よ
万華鏡の歌よ

7/30/2025

〈断〉2

 崇めるだけが本当に正しい方法なのだろうか? 遠くにあるそれが何なのか、もっとよく見なければならない……。声が聞こえるようだ。「今回も、やるべきことをやり遂げるのだ。そうだろう?」黒い外套が風にたなびき重く揺れる。どこかを見つめているようなかの者は、実はもう一人と目を合わせている。たとえ、互いが気付いていなかったとしても……そんなはずはない。分かっている。確かに知っている。あの潮の香りがよみがえる。さあ、「私」にはどんなことができるだろう? 旅路をもう一度。煙は夜空へ、高く。鉄に落ちた亡骸に捧ぐ。眼を閉じ、また開く。かれらのことばは、いずこなりとも。

6/30/2025

〈断〉1

2025年某日朝4時半、窓の外で鳥が鳴き始めた頃、何やらわからないものに突き動かされたように目覚め、机上のランプひとつを頼りに思いつく限りの事々を書き記す。語るべきものを全て記すにはあまりに多く、語りつくしたと宣言するにはあまりに早い。精神の牢獄、繰り返した過去、あらゆる時を超えて訪れた夢の風景。そして何より、それらを書き残す決意。丁寧に、大切に記したこの記憶を、はるかな時間を越えて誰かに読まれる、そんな幸運があるのなら。2025年現在、今ここの「私」が見ているものと同じようにすべてを思い出せるのなら。すべてを思い出すとは何ら誇張するつもりはなく、何度でもその時代において「私」は「私」を思い出す。私は確かに見ていた、地底の暗闇を、あたたかな光を、失くすまいとした思い出を……多少の違いはあれど、同じだった。だから書く、「私」の見た、過去から未来に至るまでのあらゆる記憶を決して忘れることのないように……そうだ、「私」は忘れない。灯されなくなった数々の灯りは、再び見出される瞬間を待っている……灯りの向こうに、確かに誰かがいる。それも沢山の誰かが。

/……かつて海の向こうに旅立ったのならば、私は幻想の海を行こう。