9/20/2024

12.

なつかしき形見は
水面の扉へ
散り散りになった欠片は
未だかそけき流星群
私が私であるように
君が君であるように
祈り、想い、求め、願う
かの地の名はアルモニ

密かな切望
最初の宝
姿は変われど、奪われようと
壊れることのなかった鍵
閉ざされた昼
影の安らぎ
静寂の灯火
君の手を取る

一人きりの約束
「ここでなら、会える」
刈り取られた芒
出立の時
寄る辺なき家々の
終わりなき宴
世界はとうの昔に閉ざされ
「次」の地図に記す

さすらい歩き、歩き続けた
もはや自分が誰なのか
どのような名だったか
知らぬまま 歩みを止めなかった
また会おう、アルモニの夕べよ
かつての片割れよ
影の墓場に眠る
誰も看取ることのなかった鳥よ

9/08/2024

11.

数百年前の旅の続き、いつか訪れた城へ再び客人として招かれたのは、導かれたのか、それとも探していたからなのか。昼間に城の姿を見ることはできず、夜まで待たなければならない。しかし、こちらの時の流れに合わせることはない。丘の中腹、橋を渡り、風戦ぐ草原の先へ。月の光に照らされた城の影から、一人の騎士が現れ出、異邦の客人を迎える。騎士は言葉を発しないが、ただ告げる、「私とお前は同じなのだ」。
 
王者の格を持って生まれた子、待ち望まれた者は、満を持してこの世界に現れた。幼子はすべてに守られていた。世界は誠実によって見通すことができる、そうあれかしと、あとはただ行くだけだと。

美しいもの、とりわけ景色や場所を守るかのように、小ぢんまりとしたひとつの花園を作ることに心を注いだのは、彼の終ぞ語られることのなかった、ある誓いのため。騎士は独り身ではあったが、決して孤独ではなかった。誓いは彼に手を重ね、鍵となり、どこへでも行くことができた。鍵は、そこにあるだけで充分だったのだ。

しかし、いつしか現れた、彼の静かな楽園に土足で入り込むものたちは、見つめ心和ますだけに飽き足らず、実際に手に収めないと満足することはない。たとえその手が腐り落ちようと、自らを省みるどころか花の毒や棘のせいにする! そして過剰に褒めそやすのが聞こえる、「綺麗な薔薇には棘がある」。
 
いかに楽園が暴かれようと、彼の誓いは揺るがない。それが不幸な運命をもたらすとしても、報いを受けるべきだと決意したのは、他ならぬ彼自身だ。戦いの前夜、流れ行く雲の下に立つ。彼は、自分も、仲間たちも、風の供をすることを知っている。そして、この景色を見ているであろう、いずこにいるはずのその人に語りかける。「自由に駆け抜ける我らの幼心を、どうか見守ってくれるように。私は運命の呼び声に応えよう」。
 
東の空が明るんできた。高々と聳える城も、私の前に現れた騎士も、みないなくなっていた。私にはまだ、やらなければならないことがある。たった一言の祝福と、決して消えない呪いが、かつて騎士が見たものと同じ、優しき最初にして最後の景色を私の眼に映す。

8/23/2024

10.

果てしなく深く、果てしなく遠く
灯火の示す方へ
砕け散り分かたれた
あまねく夜の光芒
私を呼ぶ声はこだまし、
大地は黒く荒れた岩山となった
無風の園
影の騎士の帰還

君は其処に在るか?
霧の中であろうと見上げよう
消えはしない
離さない限りは
最初の記憶の導くままに
輝ける時の先へ!
そして、最後の夜明け前に
私の名を呼んでくれ

星の船乗り
幾世紀の放浪
その透徹した目は
すべてを越え、見送らんがため
失われた世界と
明かされぬ誓い
同じ火を見たのなら
今一度、あの贐を

8/07/2024

9.

いつからだっただろうか、手のひらほどの大きさの紙片を手に入れて以来、片時も手放さなくなったのは。紙の上半分には文字の書かれた跡が数行残っているので、手紙の一片だと思われる。隅には花柄の装飾が施されているが、色はくすんでいる。それでも元々は華やかな赤と青、金であったこと、この手紙にふさわしくあるために、時間をかけて細やかな仕事がされたことがうかがえる。それは一晩の間にのみ訪れることのできた夢の街を一つも忘れまいと、目に映る限り仔細まで書き記したときのようだ、再び訪れても思い出せるように。その手紙の欠片は、私が密かに憩うあの海辺に行こうと扉を開けると、風に飛ばされて来たのか、目の前にひとり落ちていた。そして、私は少しのことでこの出来事を口外することのないよう、波の裏側に隠した。

導かれるように踊り、導くべく舞う。踊り、踊らされるその冠は、どこで見つけられようか? 今もなお唱え続けているはずだ、目を覚ますための秘密の呼び声を。軽やかな歌のようだが、あれは歌声ではない。聞き届けられるその日を待つ、高らかな叫びだ。しかし、あまりにも視界が悪く、どの方角に向かって声を上げたら良いか判らない。かの者の言葉は、崩々になってしまったのだろうか? 残ったものをかき集め、読めるようになった文章は、いつかの一人、ないしはごくわずかな誰かに向けられたものだ。幾度も私の記憶を連れ去ろうとした最後の燎火は、未だ消えずにいる。その度に雲が分厚くのしかかって来るのを、一点を見据えて払いのける。この雲を越える。でたらめに方々を行くように見えるが、階段は確かに繋がっているのだ。

ようやく一歩踏み出すに到った。手紙は夜明けのためのものだ。手紙を書いたのは私であり、また書くのも私だ。かつて書いたものの一片を託されたのならば、かつてと同じようにしよう。言うなれば、これは「捧げもの」だ。欠けた言葉がそこにあるのならば、なお輝いているのであれば、忘れ形見とともに、今はここに。

7/28/2024

8.

忘れられたページの
黒く褪せない言葉
高く積まれた宝に埋もれた
古い紙とペンが一本
あてどなき熱の規則的な流れ
定められた問答
空に溶けた煙の波
死した鳥に捧げる歌

人知れず旅立った
花の咲く地を目指して
この朝は私のもの
ひとりきりの約束を
ランタンは消えかけたが
向こう側は晴れている
頬に兆す
霧の終わり

遠くどこかの声に呼ばれて
再び水辺に上がった
あたりを見回してみると
宝はみな海の底に沈んでいた
銀のナイフは未だ鋭く光り
金の指輪は輝く
今はふたつだけ携えて行くのだ
いずこともなく明日の方へ

7.

右手に薔薇、首には銀の鎖
目には黄金
君は静かな夏の海月

私は今度こそこの刃を
固く握り締めるのだ

二百年前から
船は進み続けていた!
そして二百年後
次の日が昇るときにはすでに
遠き港より発つ

相まみえる夜の果て
茜色に輝く灰
未だ焼毀されぬ悪夢の終わり

星が再び輝いた
見失わないようにペンを執るとしよう
行こう、真っ暗な陽光のもとを

6.

幾年の誓い
狂気の踊り
小高い丘の上には
固く荒れた土の跡
昔日の要塞
消えた夜の星
二十四年前の祝福と呪いは
今もなお光の裏側に
虹が道行を惑わせて
家はたちまち戸を閉じる
舟はまっすぐに走り
日はとうに沈んでいた

孤独の王の大願
知られざる炎
世界の気高き鍵で
開くことはなかったか?
存在の恐れ
乖離の衝動
寄る辺なき明日
記されぬ今日
波間を行く彗星を求めて
もう一度航海を
置き手紙は一人へ
作りものの薔薇を添えて

緋色の鳥
錆びることのない切先
かき消された境界
秘密の歌
はや光年の都
果ての岸辺
漂白の末にかの言葉は
再び我が元へ
海蛇の住処に眠り
目を覚ました
しかと聴こえるだろう
語りつづけるのならば

5.

聞こえないざわめきに一人たたずみ
小さな結晶を拾い上げた
それはくすんでは弱く光り
最後には深く鮮やかな青となった
足元には多くの同じ結晶が落ちていたが
誰も気付くことはなかった
わたしは少しずつ拾い集め 首飾りを作り
輝きを密かに自分のものとした

いくつもの角を曲がり 道なりに歩き続けると
小径のつきあたりに「庭」があった
輝く花は広がるように植えられて
物言わぬ影によって守られていた
誰かは確かにここにいたのだ
あるいは、それはわたしでもあった
わたしは過去を呼び起こし
このささやかな楽園から立ち去った

草叢は道ゆく道を覆い隠し
正しい方角は失われた
構うものか、最初のコンパスは
とっくに壊れていたのだから!
吹き荒ぶ無風の街道
燃えるような旅路
眠るにはあまりに遠く
癒えるにはあまりに深い

かつて訪れたはずの地に
それと分からないようにして標を置いた
導く松明の名は「希望」と「憎しみ」と言い
一方にひとつを、もう一方にもうひとつを分け合った
朝の向こうに夜を見
昼の向こうに夕べを思う
言葉はひとつの夢
焦がれたままひとり待つ

4.

ひび割れた荒野
崩れゆく大地は砂となり
足元を呑み込んで
膝を突く
眼前の山々はあまりに峨しく
斬棘の剣はみな錆びて
悲しみは許されず
憎むことすらままならぬ

小高い丘から見渡そうとも
それよりも高いのはここにある
悪の意匠
光の果て
記される五画目
消えかけの灯火
名付けられた贋金
尊き欠片の疑念

既に知った硝子の格子窓
心を決めた者の征先は
弱く確かで
しかし決して消えることはない
待ちわびた時は思いがけなく現れ
灝々として白昼夢は二百年前の過去
今一度、炎を
今一度、その名を

3.

単なる過去の一つ
数秒の記憶
繰り返される旅の薄暮
またと夢見る終着点

なればこそこの夜に
紡がれなかった言葉を
語ることのなかった物語を
朝を越えてもなお残るように

流れ、流され、流れる
立ち尽くした土牢に刻んだ印
一体誰が太陽の最も明るい時を知ることができよう?
秒針はとっくに壊れている

未だこの足は重く
扉は青く燃える
忘るるなかれ、鍵はすでに持っている
忘るるなかれ、枯れない薔薇を