5/10/2026

〈断〉4:「K」

永い時を放浪した者は、終着点の〈祭壇〉に辿り着き、最後(あるいは最初)の炎を灯す。煙は昇り、〈王国〉の全景を映し出す。神々の住まう山脈、七つの夜明け、遊ぶように駆けてゆく星々と天使たち……それらは〈王国〉そのものだ。それぞれの事象でありながら、また同時にすべてでもある。映し出された〈王国〉のあらゆるものが、炎となり、煙となり、飛翔したかつての同胞たちだ。星が単なる星であろうか? 雲間にそれらが自由に流れて行くのを視たときから、何もかもは始まっていた。はじめからそれらはあったのだ、はじめから導かれていたのだ。
私もまた行くだろう。

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1/10/2026

16.

賛美、泡沫のような賛美が
魅入る者たちの顔を映し出し
御伽話は飽和した
親しき登場人物の名や生き様を記すべく
胸の内に 僅かに
残っていたはずの彼らの声は
雑踏に搔き消された
 
目も眩むほどの光に照らされた宝を
見せびらかさずにはいられなくなり
なけなしの財をはたいて作られた祭壇に
眠っていたのは誰だったか?
幻はやはり幻にすぎなかった
それでも霧の向こうの道は照らされている
時はあざ笑うかのように
優しい微笑みを湛えて見守る
 
幸福のさなかにある者は すでにひとつの
結末に辿り着こうとしている
昼は夜を、夜は昼を、互いを忘れたことはない
幻影が私のそばを通り過ぎてゆく
夢心地の〈聖域〉と 水平線の続くところで
同じように思い出し
彼らも私も 同じように旅を始めるだろう
歌え!
 
導け、導け、
そして地を彷徨う。
凱旋せよ、視ている、
そして独り歩み続けろ。

12/31/2025

〈断〉3

読みかけていた本のページを久しぶりに開き、続きを読む。絢爛豪華な舞台の中央で、私はいつの間にか眠りに誘われる。
目が覚めた。大分長い間眠ってしまったように思われた。いつも使っている机、その上にはコーヒー、水、蝋燭、ノート、紙片、インク、万年筆、ポストカードが眠る前と全く同じ場所に置かれていた。部屋だけが異質だった。私が目覚めた場所は、おそらく〈家〉の中の一部屋ではあるが、机と椅子が入る程度の広さしかなく、扉や廊下どころか通路と呼べる場所すらも見当たらなかった。〈家〉は新しく、簡素で、明るく優しい現代的な色合いの木で造られていた。天井も、床も、壁も全て同じ木でできており、狭い〈部屋〉の天井中央にランプが灯っていた。私はこの快適に閉ざされた自分の〈部屋〉に漠然とした不安を覚え、今すぐこの場所から離れなければならないように感じた。
ふいにどこからか私を呼ぶ〈母親〉の声がした。優しく、不機嫌で、有無を言わせない号令が、惑う魂を捉えて離さない。私にはまだ僅かに抵抗する力が残っていた。ここから逃げることが、この夢から覚めることができたら、安全であると言える。私は脱出することを強く念じた。金縛りから解放されたような感覚の後、始めに眠りこけたときと同じ体勢で椅子に凭れかかり、開いたままの本を抱えていた。逃げ切れた、と思った。しかし、目覚めたこの瞬間もまた夢だった。私は再び〈部屋〉に戻されようとしていた。あまりに強い力に引きずられながら、私は日頃手元に置いておいた紋章の入ったメダルを咄嗟に手に取り、助けを願う相手も見えないまま、助けてくれるようにと願った。
やがてまた〈部屋〉に戻った。今度は〈母親〉が机を(机の上にあったものも丸ごと)軽々と持ち上げて、「最早お前の行くべき場所は他にはない」「物語はもう存在しない」と無言で示した。私が椅子から降りると、一方の壁の下方がひとりでに動き、螺旋階段となってさらに下の階に続いた。階段は人一人分の幅すらないくらいに狭く、身を捩りながらようやく階段を降りきった先は〈家〉と同じ材質で造られた壁で塞がれていた。
壁を押しやると木目が波打ち、壁が遠ざかった。もう一度押すと、壁は小さな立方体の波を作り、広がって遠ざかった。さらにもう一回押しやると、壁は突如として金紗の大幕に変わり、大広間が現れた。幕は広間を縦断し、心地良い風が一面に通り抜けていた。私は大幕の下に立ち、そっと触れると、金紗が私の手を優しく掴むように包み込んだ。私はその手を取り勢いよく引き上げると、身体は軽やかに上昇し、幕の一番上のところに飾られた、自分の倍も大きさのある赤い薔薇の元まで昇りきった。私は薔薇を抱き締め、金紗の大幕は私を包み込み、遥か上方から降り注ぐ光が未知の国を照らした。

10/06/2025

15.

荒波に火を灯せ
静寂に満ちる花の馨り
流れ去る煙は廻り
触れた声は散り散りになって砕けた
風よ、言の葉よ
天を衝く幻の山々よ
語られぬ遠き道よ
万華鏡の歌よ

7/30/2025

〈断〉2

 崇めるだけが本当に正しい方法なのだろうか? 遠くにあるそれが何なのか、もっとよく見なければならない……。声が聞こえるようだ。「今回も、やるべきことをやり遂げるのだ。そうだろう?」黒い外套が風にたなびき重く揺れる。どこかを見つめているようなかの者は、実はもう一人と目を合わせている。たとえ、互いが気付いていなかったとしても……そんなはずはない。分かっている。確かに知っている。あの潮の香りがよみがえる。さあ、「私」にはどんなことができるだろう? 旅路をもう一度。煙は夜空へ、高く。鉄に落ちた亡骸に捧ぐ。眼を閉じ、また開く。かれらのことばは、いずこなりとも。

6/30/2025

〈断〉1

2025年某日朝4時半、窓の外で鳥が鳴き始めた頃、何やらわからないものに突き動かされたように目覚め、机上のランプひとつを頼りに思いつく限りの事々を書き記す。語るべきものを全て記すにはあまりに多く、語りつくしたと宣言するにはあまりに早い。精神の牢獄、繰り返した過去、あらゆる時を超えて訪れた夢の風景。そして何より、それらを書き残す決意。丁寧に、大切に記したこの記憶を、はるかな時間を越えて誰かに読まれる、そんな幸運があるのなら。2025年現在、今ここの「私」が見ているものと同じようにすべてを思い出せるのなら。すべてを思い出すとは何ら誇張するつもりはなく、何度でもその時代において「私」は「私」を思い出す。私は確かに見ていた、地底の暗闇を、あたたかな光を、失くすまいとした思い出を……多少の違いはあれど、同じだった。だから書く、「私」の見た、過去から未来に至るまでのあらゆる記憶を決して忘れることのないように……そうだ、「私」は忘れない。灯されなくなった数々の灯りは、再び見出される瞬間を待っている……灯りの向こうに、確かに誰かがいる。それも沢山の誰かが。

/……かつて海の向こうに旅立ったのならば、私は幻想の海を行こう。


2/09/2025

14.

漫ろ歩く夢の岸辺、

見渡す限り煥いて、

覆い隠してくれるはずの

空は虚となって消えた。

思い出せ、思い出せ、

聞く者なき託宣を。

見せかけの怪物たちは

霧の中をひた走る。


沈んでいったものたちを

甦らせるべく、

運命に憧れて

運命をまた憎む。

目も眩む晅気を

討ち倒すべく、

玉座でただ一人

王は哄笑する。


流れ着く偽りの王国、それは

征服された理想の王国。

林立する鯨の亡骸、あるいは

すべての海に生きた彼等の遺骸。

忘れるな、忘れるな、

なおも響く笛の音を。

はじまりの意志だけが

人知れず目を覚ます。


12/19/2024

2024/12/19

〈備忘を兼ねて、或る街についての記録〉


大きな直線道路を道なりに進むと、左側の遠くに大きな街が見えてくる。そこは多くの観光客が訪れる街で、主に二つのエリアに分けられる。

 

ひとつめは商業施設が集まったエリアで、「道路」からは二つの建物が特に目立って見える。一棟がまるまるスーパーマーケットになっている巨大な建物と、そのスーパーマーケットよりも大きい複合型商業施設。こちらのエリアは街の人々の生活圏でもある様子。「道路」とエリアとの間は広い林を挟んで離れている。このエリアに行くためには、「道路」よりもひとつ下にある別の歩道に降りる必要がある。


もうひとつは観光エリアで、こちらはひとつめのエリアとは大きく異なり、一帯が観光地になっている。二つのエリアにアクセスするには「歩道」を使うと片道15分ほどで行き来できる。観光エリアは全体を回れなかったので詳しくは分からないが、外観の似た建物が集まる小規模の観光地がさらにいくつかまとまっているようだった。今回見たのは坂の上にできた街で、「歩道」から直接石畳でできた坂道の通りに繋がっている。両脇に3~4階建ての比較的低いレンガ造りの建物が連なっている。建物は土産物や食べ歩きグルメ系のショップが大半。今回は夜間にこの場所に留まっている時間が長かったが、遅い時間でも多くの人で賑わっていたので、この周辺は他と比べて特に人気のある場所のように思えた。

 

上記の観光エリアの外れに、全体が黄色い外観のタワーがある。中はいろいろなテナントが入ったアミューズメントパークのようなもので、上層の方には映画館やゲームセンターがあった。最上階には屋上に繋がる階段がある。百貨店の屋上とよく似て、フードコートが併設された広場になっているようだった。知り合いの親子からたまたま近くにいると連絡を受け、タワーで待ち合わせることにした。


親子と合流し、一旦観光エリアに戻ってから、通りをエリアの反対側に15分以上歩くと、道が拓けて港に辿り着いた。ここにほとんど人はおらず、街の誰もがこの港を忘れているようだったが、私はかつて別の場所で同じ景色を、晴れた空と、世界の果てにただ広がる穏やかな海を見たことがあった。港にはいくつか小型船が停泊しており、そのうち一艘で乗船体験をすることができた。船へは私と親子、案内人の乗組員一人の四人が乗った。


親子と別れる時間になった。まだ船は港に着いていなかったが、親子は海の方へ去っていった。私は沖の遥か向こうにすでに小さくなった二人の人影を見た。次にまばたきをしたときには、二人の姿はもう見えなかった。やがて、自分も戻らなければと思った。気が付くと、船内の部屋で眠っていたようだった。部屋は暗くがらんどうで、家具や窓、さらに荷物の何一つなかった。すでに船は港に着いていた。私が降りるのを待っていた乗組員に礼を言い、街へ走り戻った。しばらく進んだところで、船に忘れ物をしていたことに気がつき、来た道を戻った。港にはまだ船は何艘か泊まっていたが、自分が乗ったはずの船はもうどこにもなかった。私は波止場から海をもう一度見た。海は変わらない朝の光を湛えて凪いでいた。

11/09/2024

13.

昼の中の夜
迎えてしまった朝の日々
閉ざされたままの宝箱
鍵は誰が持っていたか
我が見つめるところを知るまでは
地上にあの懐かしい野を取り戻そうとして
天の星々からもわかるようにと
わずかばかりの火を灯したものだ

しかし、今はどうだ?
打ち棄てられた灯台をよそに
錨を下ろすこともなく 過行くばかりの
導き手を失った船たちよ!
わたしは海の底に横たわり
陽光の影を見上げる
いつか眺めていた窓越しの太陽も
同じようなものであった

塵となった骨がさまよい出でて
わたしの手を取り、目を閉ざす
過ぎ去った者たちの思い出話に
耳を傾けてみようか
狂人のソネット
世捨て人のカノン
在りし栄華を悼む
名もなき王の凱歌

しかし、わたしはまだ語らなければならない
決して絶えない輝きの
ただひとつに報いるべく
果てなき旅の続きを!
流れゆく波の彼方から
ひとりが鐘を鳴らしてやって来た
鐘の音は遠くへ去って行ったが
わたしは今もその音を聴いている

9/20/2024

12.

なつかしき形見は
水面の扉へ
散り散りになった欠片は
未だかそけき流星群
私が私であるように
君が君であるように
祈り、想い、求め、願う
かの地の名はアルモニ

密かな切望
最初の宝
姿は変われど、奪われようと
壊れることのなかった鍵
閉ざされた昼
影の安らぎ
静寂の灯火
君の手を取る

一人きりの約束
「ここでなら、会える」
刈り取られた芒
出立の時
寄る辺なき家々の
終わりなき宴
世界はとうの昔に閉ざされ
「次」の地図に記す

さすらい歩き、歩き続けた
もはや自分が誰なのか
どのような名だったか
知らぬまま 歩みを止めなかった
また会おう、アルモニの夕べよ
かつての片割れよ
影の墓場に眠る
誰も看取ることのなかった鳥よ

9/08/2024

11.

数百年前の旅の続き、いつか訪れた城へ再び客人として招かれたのは、導かれたのか、それとも探していたからなのか。昼間に城の姿を見ることはできず、夜まで待たなければならない。しかし、こちらの時の流れに合わせることはない。丘の中腹、橋を渡り、風戦ぐ草原の先へ。月の光に照らされた城の影から、一人の騎士が現れ出、異邦の客人を迎える。騎士は言葉を発しないが、ただ告げる、「私とお前は同じなのだ」。
 
王者の格を持って生まれた子、待ち望まれた者は、満を持してこの世界に現れた。幼子はすべてに守られていた。世界は誠実によって見通すことができる、そうあれかしと、あとはただ行くだけだと。

美しいもの、とりわけ景色や場所を守るかのように、小ぢんまりとしたひとつの花園を作ることに心を注いだのは、彼の終ぞ語られることのなかった、ある誓いのため。騎士は独り身ではあったが、決して孤独ではなかった。誓いは彼に手を重ね、鍵となり、どこへでも行くことができた。鍵は、そこにあるだけで充分だったのだ。

しかし、いつしか現れた、彼の静かな楽園に土足で入り込むものたちは、見つめ心和ますだけに飽き足らず、実際に手に収めないと満足することはない。たとえその手が腐り落ちようと、自らを省みるどころか花の毒や棘のせいにする! そして過剰に褒めそやすのが聞こえる、「綺麗な薔薇には棘がある」。
 
いかに楽園が暴かれようと、彼の誓いは揺るがない。それが不幸な運命をもたらすとしても、報いを受けるべきだと決意したのは、他ならぬ彼自身だ。戦いの前夜、流れ行く雲の下に立つ。彼は、自分も、仲間たちも、風の供をすることを知っている。そして、この景色を見ているであろう、いずこにいるはずのその人に語りかける。「自由に駆け抜ける我らの幼心を、どうか見守ってくれるように。私は運命の呼び声に応えよう」。
 
東の空が明るんできた。高々と聳える城も、私の前に現れた騎士も、みないなくなっていた。私にはまだ、やらなければならないことがある。たった一言の祝福と、決して消えない呪いが、かつて騎士が見たものと同じ、優しき最初にして最後の景色を私の眼に映す。

8/23/2024

10.

果てしなく深く、果てしなく遠く
灯火の示す方へ
砕け散り分かたれた
あまねく夜の光芒
私を呼ぶ声はこだまし、
大地は黒く荒れた岩山となった
無風の園
影の騎士の帰還

君は其処に在るか?
霧の中であろうと見上げよう
消えはしない
離さない限りは
最初の記憶の導くままに
輝ける時の先へ!
そして、最後の夜明け前に
私の名を呼んでくれ

星の船乗り
幾世紀の放浪
その透徹した目は
すべてを越え、見送らんがため
失われた世界と
明かされぬ誓い
同じ火を見たのなら
今一度、あの贐を

8/07/2024

9.

いつからだっただろうか、手のひらほどの大きさの紙片を手に入れて以来、片時も手放さなくなったのは。紙の上半分には文字の書かれた跡が数行残っているので、手紙の一片だと思われる。隅には花柄の装飾が施されているが、色はくすんでいる。それでも元々は華やかな赤と青、金であったこと、この手紙にふさわしくあるために、時間をかけて細やかな仕事がされたことがうかがえる。それは一晩の間にのみ訪れることのできた夢の街を一つも忘れまいと、目に映る限り仔細まで書き記したときのようだ、再び訪れても思い出せるように。その手紙の欠片は、私が密かに憩うあの海辺に行こうと扉を開けると、風に飛ばされて来たのか、目の前にひとり落ちていた。そして、私は少しのことでこの出来事を口外することのないよう、波の裏側に隠した。

導かれるように踊り、導くべく舞う。踊り、踊らされるその冠は、どこで見つけられようか? 今もなお唱え続けているはずだ、目を覚ますための秘密の呼び声を。軽やかな歌のようだが、あれは歌声ではない。聞き届けられるその日を待つ、高らかな叫びだ。しかし、あまりにも視界が悪く、どの方角に向かって声を上げたら良いか判らない。かの者の言葉は、崩々になってしまったのだろうか? 残ったものをかき集め、読めるようになった文章は、いつかの一人、ないしはごくわずかな誰かに向けられたものだ。幾度も私の記憶を連れ去ろうとした最後の燎火は、未だ消えずにいる。その度に雲が分厚くのしかかって来るのを、一点を見据えて払いのける。この雲を越える。でたらめに方々を行くように見えるが、階段は確かに繋がっているのだ。

ようやく一歩踏み出すに到った。手紙は夜明けのためのものだ。手紙を書いたのは私であり、また書くのも私だ。かつて書いたものの一片を託されたのならば、かつてと同じようにしよう。言うなれば、これは「捧げもの」だ。欠けた言葉がそこにあるのならば、なお輝いているのであれば、忘れ形見とともに、今はここに。

7/28/2024

8.

忘れられたページの
黒く褪せない言葉
高く積まれた宝に埋もれた
古い紙とペンが一本
あてどなき熱の規則的な流れ
定められた問答
空に溶けた煙の波
死した鳥に捧げる歌

人知れず旅立った
花の咲く地を目指して
この朝は私のもの
ひとりきりの約束を
ランタンは消えかけたが
向こう側は晴れている
頬に兆す
霧の終わり

遠くどこかの声に呼ばれて
再び水辺に上がった
あたりを見回してみると
宝はみな海の底に沈んでいた
銀のナイフは未だ鋭く光り
金の指輪は輝く
今はふたつだけ携えて行くのだ
いずこともなく明日の方へ

7.

右手に薔薇、首には銀の鎖
目には黄金
君は静かな夏の海月

私は今度こそこの刃を
固く握り締めるのだ

二百年前から
船は進み続けていた!
そして二百年後
次の日が昇るときにはすでに
遠き港より発つ

相まみえる夜の果て
茜色に輝く灰
未だ焼毀されぬ悪夢の終わり

星が再び輝いた
見失わないようにペンを執るとしよう
行こう、真っ暗な陽光のもとを

6.

幾年の誓い
狂気の踊り
小高い丘の上には
固く荒れた土の跡
昔日の要塞
消えた夜の星
二十四年前の祝福と呪いは
今もなお光の裏側に
虹が道行を惑わせて
家はたちまち戸を閉じる
舟はまっすぐに走り
日はとうに沈んでいた

孤独の王の大願
知られざる炎
世界の気高き鍵で
開くことはなかったか?
存在の恐れ
乖離の衝動
寄る辺なき明日
記されぬ今日
波間を行く彗星を求めて
もう一度航海を
置き手紙は一人へ
作りものの薔薇を添えて

緋色の鳥
錆びることのない切先
かき消された境界
秘密の歌
はや光年の都
果ての岸辺
漂白の末にかの言葉は
再び我が元へ
海蛇の住処に眠り
目を覚ました
しかと聴こえるだろう
語りつづけるのならば

5.

聞こえないざわめきに一人たたずみ
小さな結晶を拾い上げた
それはくすんでは弱く光り
最後には深く鮮やかな青となった
足元には多くの同じ結晶が落ちていたが
誰も気付くことはなかった
わたしは少しずつ拾い集め 首飾りを作り
輝きを密かに自分のものとした

いくつもの角を曲がり 道なりに歩き続けると
小径のつきあたりに「庭」があった
輝く花は広がるように植えられて
物言わぬ影によって守られていた
誰かは確かにここにいたのだ
あるいは、それはわたしでもあった
わたしは過去を呼び起こし
このささやかな楽園から立ち去った

草叢は道ゆく道を覆い隠し
正しい方角は失われた
構うものか、最初のコンパスは
とっくに壊れていたのだから!
吹き荒ぶ無風の街道
燃えるような旅路
眠るにはあまりに遠く
癒えるにはあまりに深い

かつて訪れたはずの地に
それと分からないようにして標を置いた
導く松明の名は「希望」と「憎しみ」と言い
一方にひとつを、もう一方にもうひとつを分け合った
朝の向こうに夜を見
昼の向こうに夕べを思う
言葉はひとつの夢
焦がれたままひとり待つ

4.

ひび割れた荒野
崩れゆく大地は砂となり
足元を呑み込んで
膝を突く
眼前の山々はあまりに峨しく
斬棘の剣はみな錆びて
悲しみは許されず
憎むことすらままならぬ

小高い丘から見渡そうとも
それよりも高いのはここにある
悪の意匠
光の果て
記される五画目
消えかけの灯火
名付けられた贋金
尊き欠片の疑念

既に知った硝子の格子窓
心を決めた者の征先は
弱く確かで
しかし決して消えることはない
待ちわびた時は思いがけなく現れ
灝々として白昼夢は二百年前の過去
今一度、炎を
今一度、その名を

3.

単なる過去の一つ
数秒の記憶
繰り返される旅の薄暮
またと夢見る終着点

なればこそこの夜に
紡がれなかった言葉を
語ることのなかった物語を
朝を越えてもなお残るように

流れ、流され、流れる
立ち尽くした土牢に刻んだ印
一体誰が太陽の最も明るい時を知ることができよう?
秒針はとっくに壊れている

未だこの足は重く
扉は青く燃える
忘るるなかれ、鍵はすでに持っている
忘るるなかれ、枯れない薔薇を